菜々子の生活記録と戯言

かなり適当な言葉に言葉を連ねる住処

放浪息子 雑感

放浪息子とは、なんだったのか。

 

そんなことを考えても仕方のないことだということは、分かりきっていた。

しかし、このどうしようもない気持ちを整理するために、今日はそのことについて書いていきたい。

 

まず大前提として、これはわたしの解釈がかなり入っており、正確なものではないということを付け加えておきます。

 

わたしがこの作品と出会ったのは、テレビアニメとして放映されていたのを、偶然みたことがきっかけだった。

あまりにも衝撃的な展開だったことを、今でもはっきりと覚えている。

主人公である二鳥修一が、姉の洋服を勝手に着てしまい、姉に怒られるというシーンがある。

そのあと、修一は家を飛び出していくのだが、わたしにははっきりいって意味がわからなかった。

それもそのはず、この作品はその前に原作話が存在していたのだ。

 

※これ以降は作品の根幹に関わる部分の、ネタバレを含んでいます。

 

 

ぜひ原作を読んでいただきたいので、詳細はあえて割愛するが、原作では修一が小学生の時の話から始まる。

そのころに高槻よしのと出会い、異性装をして外出をすることが度々あった。

つまり、修一は「女の子になりたい男の子」、よしのは「男の子になりたい女の子」ということである。

お互いがお互いのことを同志だと思っていた。

 

みなさん知っての通り、二次性徴期がくるのは、女の子の方が早い。ゆえに、よしのは自らの体に嫌悪感を抱くようになっていく。

その一方、修一は声変わりや体型の変化といったものが存在していることは認知していたが、そのこと自体をあまり意識することがなかった。

 

だが、あるときを境に、よしのは自らの体に対する嫌悪感が薄れていることを知る。

それどころか、受け入れてより魅力を引き出そうとさえしていた。

修一はというと、自身が男であるということを認めた上で、修一の彼女である末広安那との付き合いを続けていた。

 

放浪息子の中でも好きな巻数は、14と15巻なのだが、その中で印象的なセリフを引用したいと思う。

 

14巻16ページ "最近さ イヤじゃないんだよね 前はオエーって感じだったのに"

これは、自分の体を受け入れることに対して、特に拒絶感をもたなくなってきた、よしのちゃんのセリフです。

考え方が変わる、そのことで二鳥くんのことを傷つけないか。そんなセリフです。

 

14巻182ページ "気が変わることは わるいことじゃないわよ"

修一の知り合い、ニューハーフのユキさんのセリフ。

これ、わたし的にはかなり重たいセリフだと思っているんですね。

そのシーンの少し前に、よしのちゃんの話題が上がるのですが、そこで "よしのちゃんは元気?"

とユキさんが聞いてくるのです。そのときの表情が硬いんですね。かなり。

人間であるが故に、思考や言動は変わることがあります。しかし、そのことを本人たちが受け入れられるか。それは、また違う話なのです。

 

15巻20ページ "わたしはずっと男の子になりたいって思ってて 二鳥くんは女の子になりたいって"

"わたしは……最近あんまり思わなくなってて…こんなのは裏切りだと思う"

よしのちゃんの頭の中のセリフ。

ここまでくると、もはや罪悪感に近いものを感じているのでしょうか。

同志であったはずの修一との関係が、変わり始めていることに気づいてしまった瞬間ともいえるでしょう。

 

15巻32ページ "そのうち限界くると思うけど いい?"

修一の姉である、真帆のセリフ。

問いかけている相手は、修一の彼女である安那ちゃんなのですが、そんなこと言われてもという感じですね。はは。

実は、修一と安那ちゃんがデートをする際は、修一は女装姿なのです。

それゆえにこんな質問を投げているのですが、安那ちゃんはあくまでも受け入れ続ける姿勢を一貫しているのです。

ちなみにこのセリフ好きなので、よくTwitterに呟いています。

 

15巻38ページ "女の子の服が着たくて あんなちゃんのことがすきな 男だ…"

頭の中の修一のセリフです。

正直なところ、初めてこのページを読んだ時は思考停止しました。

いやだって、意味がわからなくないですか。女の子になりたい修一が自らのことを男だと認めているのです。

ここまでくると潔いですね。人間味があって好きなセリフでもあります。

 

15巻103ページ "二鳥くんじゃないみたい 男の人の声"

二鳥くんと電話をしたあとの、よしのちゃんの頭の中です。

ここではっきりと、よしのちゃんの中で二鳥くんが『男の人』に分類されることとなります。

そのあとから、よしのちゃんは修一のことを考えるシーンで頬を赤らめるようになります。

 

15巻164-165ページ

"ぼくはね ずっと女の子になりたいと思ってた" "そしたら女の子の服が堂々と着られるのになって"

"たぶん欲しいのは「許される箱」だった" "うしろ指をさされない箱 親に叱られない箱"

"学校で悪目立ちしない箱 やりすごせる箱" "ぼくにはその箱は与えられなかったが A氏が言うところの「見栄えのする箱」であるようだ"

"ぼくは 恵まれた いびつな箱である"

二鳥くんの書いた小説の一部分です。

最後の一文に全てが詰まっていますが、もはや心が痛いですね。

『箱』という表現方法をとっていることが、なおさら。

ただ、いったいこの箱というのは、なんなのでしょうか。わたしはいまだにしっくりくる考えを思いついていません。

ぼんやりとは思いついていますが、うまく言語化できないのです。

 

15巻196-197ページ

"あんなちゃん ぼく" "女の人になりたい"

修一の決断のセリフです。

その次であっさり受け入れてしまう安那ちゃんですが、もうとっくに気付いていたでしょうね。

ひとつ前に取り上げた小説は、安那ちゃんが読んでいたというオチです。

いびつな箱である、のあとに安那ちゃんが泣いてしまうのですが、そのあと互いを抱擁しています。

存在を確認しているのですね。

 

 

まあ、なんというか。ああ、別に人と違ってていいんだな。という考え方に着地できたのが、ただ嬉しかったんですね。

それほどに影響を受けました。

わたしが欲しいのは「許される箱」なのであります。

 

 

今日はここまで。