結婚
早く二十歳になりたい、
そうすれば親権者の同意という枠組みから抜け出すことが出来る。
契約事もなにもかも、解決する。
子供ながらにわたしはそう思っていた……。
結婚という言葉がわたしの体をつつみ始めたのは、おそらく幼少の頃であった。
自分自身の姓の選択を委ねられたのである。
どっちを名乗るか、それぞれの家の立場はどうなるのか、そんなことは考える頭がなかった。
次に襲われたのはそれから数年後。
初めての彼女が出来た。
はっきり言えば、わたしは混乱していた。
……どれだけ長く一緒にいたとしても、家族にはなれないんだと。
大きな衝突をした事もある。あれがおそらく喧嘩というやつだった。
『それなら、あたしが男になればいいんか?』
そういうことじゃないと、きっと彼女も頭の中では解っていた。けれど、理屈と感情は違う。
そんなに単純な構造ではない。
距離が近くなればなるほどに、苦しかった。
苦しさから逃げるために、わたしはそこから逃げてしまった。
それが一度目の逃避だろう。
うつ状態になり、わたしが家からまともに出られなくなったのはその時期だった。
わたしが普通の恋愛を出来ないと知ったのも、その時期だった。
まさにあの当時のわたしは、人間の形をした抜け殻であっただろう。